山口 恭史 / Takafumi Yamaguchi

属性
機械系
完成車メーカー出身
自動車エンジニア
Vehicle Engineer
サプライヤー出身
 
小さい頃から自動車が好きで、新卒で三菱自動車に就職。世の中に貢献し、価値ある技術を社会実装できるエンジニアでありたいという思いから、日本ガイシやジェイテクトにて排ガスセンサーやステアバイワイヤの制御設計に従事。サプライヤで培った技術を用いて再び完成車を作りたいと思い、本田技術研究所に転職。2023年3月にTuringにジョイン。車両開発・技術戦略の構築・推進を担当。
 
 
現在、Turingで車体開発・技術戦略の構築・推進を組織の中心となって動かしている山口さん。「完全自動運転EV車両とは、至高の自動車技術を詰め込んだものである」そう語る彼がTuringに入社した経緯。Turingに求められるスキルやスタンスについてインタビューしました。

車と技術の狭間で

ーー三菱自動車、日本ガイシ、ジェイテクト、本田技術研究所とOEMとサプライヤーで経験を積まれた山口さんですが、どのような軸でキャリアを歩まれてきたのでしょうか?また、その過程でどうしてTuringを次の挑戦の場に選んだのでしょうか?

ユーザーに価値ある技術を届けるために

子どもの頃から自動車が好きで、学生フォーミュラ、完成車メーカーで自動車開発に熱中しており、充実した日々を過ごしていました。一方で、さまざまな企業からエンジン分野の不正ニュースが出ており、いちビジネスパーソンとして複雑な思いになったことを覚えています。
 
大手企業にいたので、仕事をしていれば給与はもらえます。「世の中に対して不正があっても給与は支払われる。そんなお金でご飯を食べていて幸せなのかな?」とモヤモヤした気持ちを抱えていました。それをキッカケに、自分が好きなことに携わり楽しいと感じる以上に、技術開発で世の中に貢献すること、自分のスキルを活かすことを大事に働きたいと思うようになりました。

さまざまな環境に身を置いた理由

ーーそんなキッカケがあって技術力を高められる環境を探し始めたんですね。複数のサプライヤーを経験されていますが、どんな狙いがあったのでしょうか?
当時はOEMに所属していましたが、より技術力を試される環境を求めサプライヤーへ転職しました。まずはエンジンにおける回路センサー部品を作り、次に自動運転技術の中核であるステアリングを経験しています。日本ガイシとジェイテクトの2社を経験しましたが、大きなプロジェクトに区切りがついたタイミングで自分のキャリアを棚卸し、次のチャンレンジの機会を探していました。
 
ーー転職活動ではどんな狙いがあったのでしょうか?
狙って転職したというよりは、だいたい一つのプロジェクトが3~5年で周期があり、その節目でより良いプロジェクトや声がけがたまたまあったという感じです。在籍している会社で数年活躍していると、どんな人でも自己評価は甘くなってしまいます。だからこそ、客観的にキャリアを見る機会を持って自分を律していました。求人を眺めるだけでなく、面接なども行い、書面だけではわからない一次情報の取得を泥臭くやっていました。それにより、自動車業界全体を俯瞰して見る姿勢や、一次情報を取りに行くスタンスが身についたと思います。

大手企業からスタートアップへ

技術を身につけてきたので次はユーザーに車を届けたいと思い、本田技術研究所に転職します。企画から展示会出展やPoCを多く行い、充実感はありました。ですが入社前後でのアンマッチを感じていたのです。
ーーどんなアンマッチを感じていたのですか?
とにかく打ち合わせ・すりあわせの世界で、多くの調整を行う形でした。自動車部品は相場が決まっているので定量的なファクトで差が出にくい構造です。だからこそ定性的な評価がウエイトを占めがちなのですが、ともすれば個人の意思や雰囲気で設計開発が進行する温床になりかねない構造でした。
 
米中で自動運転・EVスタートアップが多く生まれる中で、今の仕事のスピード感でいいのかという疑問があり、大企業ではなくスタートアップなども視野に入れて新しい環境を探そうと判断したのです。そこでTuringを見つけ、開発した案件が展示会から量産へと進みプロジェクトがひと区切りつくタイミングで応募をしました。

完成車を作る会社と、完成車メーカーを作る会社

ーー山口さんが完成車メーカーやサプライヤーとさまざまな環境を見てきた中で、Turingとの違いはなんでしょうか?

体験入社期間で気づいた大きな違い

大きな違いとして、文化の違いがあります。Turingでは「NoでなければGo」という言葉があります。私が過去所属していた場所のいくつかでは対照的で、GoでなければNoという文化でした。
 
ステークホルダーが多い環境でGoでなければNoの論理で動くのは非常に大変です。車はさまざまなレイヤーの技術・人が複雑に絡まるため、調整が長期化することは避けられず、顧客や技術よりも社内に向き合う時間が増えていました。
 
Turingの体験入社では、技術戦略やサプライヤーさまとの交渉の中で意思決定の速さやそのスタンスに驚きました。経営陣で少ない確認プロセスで合意をとり、すぐさま仮説検証やアクションに移す雰囲気に感動したことを覚えています。

Teslaの技術に追いつき追い越せ

ーー山口さんが体験入社やその後のステップで「どんなことに貢献できそうだ」と感じましたか?また、入社後にどんなことを担当されていますか?
 
まず、自動車業界の部品や機能水準の相場が決まっているからこそ、Turingの技術基盤をそのラインまで引き上げたいと思っています。車両の全体構造を俯瞰した技術戦略の策定や優先度づけ、機能安全などのイシューは絶対にやらないといけないことでしたが、当時はまだ定まっていませんでした。だからこそ早めに絵を描き、事業戦略に反映させていきました。
 
今の私のミッションはECUと部品のアーキテクチャー構築・整理です。今私がメインで行っている業務は、
  • E/Eアーキテクトの構築
  • Turingの事業戦略に紐づく車両開発戦略の構築、優先順位の見極め
    • サプライヤー交渉のための土台作り
    • 保安基準適合に向けた戦略の設計
です。OEM観点で車両の全体を見ることに加え、サプライヤーで1つの部品の設計をリードしてきたので、部品レベルで設計へ落とし込む過程をわかっています。抽象的なアーキテクチャーから開発・実装まで持っていくスキルがすごく活かせているなと感じるポイントですね。仮に自動運転車を作りたいと言っても、サプライヤーさまからすると「何をすればいいの?」と疑問を持ちます。そこに対して、正式な仕様でなくても80%のものを作っておくことで話を円滑に進めることができるのです。

車づくりと車メーカー作りの違い

ーー逆に今までの環境と大きく違うなと感じるのはどんな点でしょうか?
車づくりと車メーカーづくりは大きく違うなと感じています。今までは車や部品の開発を行っていました。技術や機能に焦点を当てていましたが、Turingではそこだけに視点を寄せると論点漏れが起きます。
 
事業戦略、資金調達のストーリーの中に車両開発戦略がある点を意識し、
  • 車体の中でどの部分の開発能力を優先的に獲得していくか
  • どんなストーリーで事業・技術の競合優位性を獲得していくか
  • 事業戦略や方針も日々変わるため、それらに柔軟に対応し常にアップデートをしていく
これらを考えながら仕事をしていかなければなりません。常に事業戦略・資金調達という会社の全体感を意識しながら動くことは新鮮ですが、非常に楽しいです。

Turingに求められる自動車エンジニアとは

ーーTuringで働いてみて、自動車エンジニアに求められる能力やスキルはどんなものでしょうか?

具体と抽象の行き来ができる人

車両開発の戦略や実行という文脈において、具体と抽象をスムーズに行き来できる人です。例えば「車は軽いこと・速いことが全てである」という考えがあります。ですが、これらは自動車のコンセプトからくる機能です。機能は顧客に価値を与えるための手段であり、目的ではありません。自動運転からくる必要な概念やあり方という抽象的なものから考え、そこからアイデアや具体的な開発を創発できる人じゃないとマッチしないなと感じています。
 
例えば、統合ECUをやろうというケースでは、全ての領域を網羅的に理解しつつ、一部分で深い知見がないとTuringでは活躍は難しいでしょう。車が動くレベルの制御を考えることができないと設計・開発を行えないと考えています。翻って求められるスキルや経験・スタンスは、「車両全体を把握する力を持ちつつ、一つの領域を極めた経験」と言えるでしょう。
 

自動運転のユーザー体験は至高の体験設計である

ーー山口さんにとって、完全自動運転車両の開発とはどういったテーマを持つものでしょうか?「エンジニアとして」どんな考えを持っているかを伺いたいです。
 
私にとって完全自動運転車両の開発とは、至高の車づくり、体験設計をすることです。完全自動運転車両において、ユーザーが揺れや加減速を極力感じないことや走っているか止まっているかわからないという体験は必須なものではないかと考えています。
 
それらは、サスペンションやステアリング技術の究極系であり、翻って自動運転の乗り心地作りとは技術的な終着点だと思っているのです。だからこそ、自動車エンジニアにとって、Turingでの開発や仕事は面白みに溢れたものだと言えるでしょう。
 
スポーツカーや一般車の乗り心地は技術を知り尽くした結果出せるものです。自動運転でリラックスした環境を整えるには、それを託せる技術基盤がないといけません。だからこそ、完全自動運転=旧来自動車技術や市場を壊すものではなく、自動車業界・技術を磨いた先にあるものだと私は思っています。
 

新しい業務を楽しみ、視界を広げる旅

ーー最後に山口さんが感じる、Turingで働く醍醐味や今後の挑戦について教えてください。
自動運転のユーザー体験を考えられることは最高の挑戦であり醍醐味です。今までも事業戦略から車を作ることはやっていました。ですが、Turingは次元が違います。既存の車の概念を壊した上で体験を考え、それが準拠する設計開発をしていけることが楽しいです。経営層と話す機会も豊富で自分もそこに関与できています。
 
今までは事業戦略や着想が勝手に降りてきて、そこに対してコミットしないといけない状態でした。「これって世の中に対して価値を提供できているのか」と疑問を感じる部分があっても手を動かさなければいけない。そんなこともありました。ですが、今は価値提供ができないとそもそも会社としての存在意義がないですし、市場で勝てません。作れば売れるというものではないからこそ、頭の使い方も違います。
 
自動車業界は過渡期にあります。だからこそ働く人はどこでどう働くかによって得られる経験・スキル・成果が変わってきたとも言えます。Turingでは技術を技術だけに閉じずに扱うことができ、エンジニアとして高い視点で仕事をする機会があります。メカやエレキ、ソフトウェアに留まらず、モビリティーの文脈で一芸に秀でた強者と働きたいですね。