棚橋 耕太郎/Kotaro Tanahashi
大学院では高分子の物性の理論解析を行う。大学院の時にCloud LaTeXというLaTeXをオンラインで編集出来るサービスをローンチし、現在では6万人以上が登録するサイトに。2015年にリクルートに新卒で入社し、機械学習で広告・人材マッチング・配送ルートなどの最適化を行った。量子アニーリング技術を社会実装する中で未踏のプロジェクトに関わり、2018年にIPAの未踏ターゲット事業のプロジェクトマネージャ(PM)に着任。実装を手がけた量子アニーリングを簡単に使うためのPythonライブラリ"PyQUBO"というOSSは、業界のデファクトスタンダードとなる。学生時代より解きたいと考えていた完全自動運転というグランドチャレンジに挑戦するため、Turingにジョイン。
人材が集まる場所の共通点機械学習と社会実装量子アニーリングと共に広がったキャリア新しいテクノロジーを社会実装する意義完全自動運転の夢とTuringキッカケはリクルートへのESにレベル5、完全自動運転というグランドチャレンジ人類未踏の課題をいつ誰と解いていくのかここには車の全てのレイヤーの技術がある求めるのは楽観的だけど、野心的で知識の吸収に驚くほど貪欲な人カジュアル面談はこちらから
人材が集まる場所の共通点
ーーAIチームにジョインし、Turingの自動運転開発を前進させている棚橋さん。前職ではどんな経験をしていたのでしょうか?

機械学習と社会実装
リクルートでは、AI・データエンジニアとして広告配信の最適化や、HR事業で求職者と求人のマッチング・レコメンドの最適化、フリーペーパーの配送最適化などを経験しました。広告配信の最適化では、秒間5万件くらいのリクエストに対して機械学習の推論を行って入札金額を算出し、オークションで勝った場合にはそのユーザにどの広告を出すのかを計算するという仕組みを作っていました。
ユーザのアクセスがあった瞬間にRedisなどのインメモリKVSから情報を取得して特徴量を構築する必要があり、いかに高速かつ精度高く推論を行うことができるかが重要なポイントでした。社内ではYahooやGoogleの広告システム(YDNやGDN)も使うので、常に配信パフォーマンスの競争をしていました。世の中に存在する大量のWEBサイトをスクレイピングしてきて形態素解析を行い、有用な特徴量を作成したり、Sparkを使って数百のCTR予測モデルを同時に分散学習する仕組みを作ったりしていました。広告配信システムは全体として大きなシステムのため、各担当開発者とロジックや連携方法の議論をしながらパフォーマンスを向上させていくというプロセスがとても楽しかったですね。私が主戦場としていたのは平たく言うと新しい技術の社会実装や大量のマッチングの最適化です。今ではMLOpsという言葉がありますが、それが生まれていない時からこのような経験ができてたことは幸せだと思っています。
量子アニーリングと共に広がったキャリア
ーー量子アニーリング技術の社会実装をされる中で、キャリアが大きく広がったと以前おっしゃっていましたが、その話を詳しく教えてください。
量子アニーリングを深めることになったキッカケは2015年頃のニュースです。カナダのD-Waveというベンチャーが量子力学を利用して組合せ最適化問題を解く計算機(量子アニーリングマシン)を開発しました。これはビジネスにおける組合せ最適化にも使えるのではないかと思い、社内でも勉強会など始めるようになったのです。
手元でシミュレータなど使って機械学習に応用する方法を考え、仕事や学会で量子アニーリングを扱ううちに国際会議など社外の場で発表する機会も出てきました。また、量子アニーラーを簡単に使うためのPythonライブリ"PyQUBO"というOSSをリリースしたところ、国内だけでなく国際的な企業や研究機関にも利用してもらえるようになり、この分野のデファクトスタンダードなツールとして使われるようになっていったのです。(余談ですが、ライブラリの中身はC++で実装されています)

ーー技術にアンテナを貼り、社会実装にまで応用するスタンスが素敵ですね。そこから未踏のプロジェクトマネージャーへはどういった形で広がっていったのですか?
当時ちょうど量子技術に関する新しい未踏事業が立ち上げるというタイミングだったのですが、その時に役所の方からPM就任について声をかけていただいたのがきっかけです。
自分以外は業界の中でも有名な大学の先生がプロジェクトマネージャを務める中で、自分なんかで務まるのかというプレッシャーもあったのですが、せっかくの機会なのでチャレンジしました。そこでさまざま方とお会いするのですが、未踏で自分がPMを担当した1名が私が入社する前にTuringで働いていたことが、入社のキッカケにもなりました。
新しいテクノロジーを社会実装する意義
ーー未踏のプロジェクトや副業などで多くの環境を見てきた経験の中で素敵な人材が集まる場所にはどんな共通点がありますか?
新しいビジョンやテクノロジーが生まれる場所には素敵な人材が集まると思っています。量子アニーリング自体は少し前からありました。今でこそ知られるようになりましたが、この分野の第一線にいる人たちは、その技術が注目されていなかった時代から取り組んできた人たちです。そのような人たちは当時は少し変わり者のような存在であったかもしれないですが、本当にその技術の魅力に惹かれて取り組んでいるので、世の中の評価とは関係なく情熱を注げる目標や野望を持っているように思います。そういったところには自然と素敵な人材が集まるのかなと思っています。
人類未踏領域や未解決領域にチャレンジすることは勇気や好奇心が必要です。そんな環境に飛び込むスタンスを持っている人たちの目は輝いていましたね。
完全自動運転の夢とTuring
ーー率直にお聞きしたいのですが、かなり充実感のあったリクルートからなぜTuringに転職したのでしょうか?

キッカケはリクルートへのESに
キッカケはリクルートの新卒入社時のエントリーシートに遡ります。実はESに「将来、完全自動運転に挑戦したい」と書いていたのです。役員面接で「うちではできないかもしれないですが、いいですか?」と聞かれたことも覚えています。
ーーなぜ自動運転に挑戦したいと思っていたのですか?
学生時代から新しいテクノロジーを使って社会をより良くしていく妄想をしていたんです。当時は太陽光パネルをつけて、充電せずに何日間も街中を飛び回るドローンができないかなとか考えていました。自分の手で社会に役に立つ技術を作りたいという思いがあったんです。その一つが完全自動運転で、シンプルに実現したら最高なものだなと思い続けていました。
レベル5、完全自動運転というグランドチャレンジ
ーーこのタイミングで完全自動運転というフィールドにキャリアの場を移した理由を教えてください。
個人的に5段階のレベルが定義されている自動運転の世界でレベル4まではおおよその解き方やストーリーが見えてきたような気がしています。もちろんまだまだ立ちはだかる壁はありますが、これから具体的な解決策と最適化が進んでいくはずです。
一方でレベル5はその問題へのアプローチもまだふわっとしており、誰も明確な解は持っていません。まだ未熟な分野だからこそ人類・産業の叡智を結集していくことになるでしょう。もしも今後必要な技術や人材がわかれば、問題への解像度は高まっていきます。レベル5実現の現実味が帯びてくることでより優秀な人材が集まり、より高いレベルの技術が構築されて問題が解決されていくと思います。だからこそ、できるかできないかまだ微妙なこのタイミングでレベル5に挑戦することはめちゃくちゃ面白いことだと思っているんです。
ーーさまざまな環境を見てきた棚橋さんだからこそ、環境選びの軸や目線も高いと思うのですがそんな棚橋さんがTuringを選んだ理由はどんなところにあったのでしょうか?
大きな理由として、車を作るというスタンスに強く惹かれました。私が在籍していたリクルートは社会で必要とされるサービスを綿密に設計し、継続的に利用されるプロダクトを作ることで収益性の高いビジネスを行うことができていました。収益性が高いからこそ、優秀な人材を集めることができ、競合優位性を高めることができていました。それがリクルートの独自の文化や存在感を支えていたと思っていま。その体験があるからこそ、技術だけではなく、エンドユーザに利用されるプロダクトや収益性の高いビジネスモデルを持つ重要性を感じていたのです。
技術は代替可能性のある部品の一つになり得ます。一方でゼロから完成車を作ることはブランドを作ることや、ある意味で夢を作ることになるので、技術の優位性以外のものも作っているという意味で強いと思っています。最先端の技術を論文として発表することも分野の発展のためには重要なことですが、最終的にユーザーに愛されるプロダクトを作ることが一番の競合優位性になると思っており、Turingは創業期からそういった思想があるから惹かれました。ソフトウェアを売ると1サプライヤーで止まってしまいます。一方で愛される車を作れば立ち位置は変わります。そういった点から、Turingのチャレンジは非常に難易度が高いが面白い挑戦だと思いました。
人類未踏の課題をいつ誰と解いていくのか
ーーTuringに入社してどんなミッションを担っていますか?また、感じる良さはなんでしょうか?

ここには車の全てのレイヤーの技術がある
現在のミッションは大規模言語モデル(LLM)を使った、声の命令と画像情報を統合して車の進行方向を推論する技術の開発を行っています。今後は自動運転や関連する新規技術を調査するリサーチチームに所属し、車に取り付けられた複数のカメラを入力情報として、車線情報や道、歩道の領域のマップを再現するモデルの作成など次世代の画像ベースの自動運転技術を実装していきます。BEV(Bird Eye View)の技術開発など、Visionセントリックなモデル開発がミッションです。先行技術のリサーチから、試験的な実装までを行います。
入社して感じるTuringの良さは、自分とレイヤー・領域の異なる専門家が多く在籍していることです。今までは似たスキルセットの人に囲まれて仕事をする機会が多かったですが、メカニックや低レイヤーなど今までとは全く異なる技術領域を強みとする人たちと働けています。自分の知らない技術に日常的に触れることができ、非常に楽しいですね。会社の体制からも、本当に完成車メーカーを作ろうとしていることをヒシヒシと感じています。
求めるのは楽観的だけど、野心的で知識の吸収に驚くほど貪欲な人
ーーそんな環境で棚橋さんが仕事で感じるやりがいや面白さはどんなところにあるのでしょうか?
解き方がわからない問題を解くことが何より楽しいです。Deep Learningはもともと猫と犬の画像分類で始まった技術です。それが今や、複数のカメラを使って経路予測やマップ情報を再現することに挑戦しています。人類のエンジニアリング技術の最先端を使って自動運転技術を作っているのは面白いですね。Deep Learningと言っても方法論や活用方法はたくさんあります。その中で自動運転に特化したモデルを開発するためにさまざまな方法を模索するという体験は他には変え難いものがあります。
ーーこれまでの経験と異なるのはどんな点でしょうか?
まだ誰も社会実装や応用ができていない技術を検証していく点です。これまでは技術の活用方法に一定のパターンがありました。最も効率よくビジネスインパクトのある施策を行うには、ある程度成熟した既存技術を組合せるということが最短の方法でした。また、最先端の技術開発を行ったとしても、それがビジネスのコアになるということはなかなかありません。
それと比較すると、自動運転の技術は別の世界観があります。まだ社会実装されていない概念や論文がたくさんあり、それらを取捨選択しながら使える現場はなかなかないと思っています。Lv.5自動運転は未踏の課題だからこそ、工夫の余地がたくさんあり面白いです。
ーー翻ってどんな人材がTuringのAIチームに求められますか?その理由は?
Turingでは、コンピュータビジョンの技術者や自動車制御プログラムを動かすOSを作る人、機械学習を行うインフラ基盤を作る人、完全自動運転に適した新しいタイプのナビゲーションシステムのUIUXを開発する人などが求められています。今までとは異なる世界や開発が求められるでしょう。
特にAIチームで求められるのは、野心的で知識の吸収に驚くほど貪欲な人です。あとは、ある意味楽観的な人が多い。楽観的でないとこういう仕事はできないと思います。これは無理、あれは無理ではなく社会を前に進めるような開発をしていける人が必要です。夢を持ち、それを実現していく人がTuringにはもっと必要なんです。