田中大介 /Daisuke Tanaka

2008年東京大学経済学部経済学科卒業。国内金融機関を経て、2011年Googleに入社。法人向けクラウドサービスG suiteの「エバンジェリスト」として、年間100回以上の講演を行う。2016年より株式会社メドレーに参画。オンライン診療システムやクラウド型電子カルテなど医療機関向けのクラウドサービスを展開するCLINICS事業の事業責任者、執行役員を務める。その後2023年1月にTuringにCOOとして参画。
ーーGoogleのエバンジェリスト、メドレーを執行役員として上場まで牽引した実績を持つ田中さん、先日の退職・入社エントリーも多くの反響がありました。そんな田中さんには過去のインタビューをもう一段深掘りした話を伺いたいと思います。

医療業界の変化とともに突き進んだメドレー時代

ーーメドレーではオンライン診療という時代の大きな変化とともに事業を大きく伸ばしてこられました。規制緩和や業界の変化が起きる中で、新しい事業をカタチにしていくのは非常に難しかったはずです。実際にどんな難しさがあり、どう解決していったのでしょうか?

業界変革期の事業に求められるのはマーケットと丁寧に対話するスタンス

当時のメドレーの状況を整理すると、オンライン診療開始という規制緩和が起こるタイミングでした。医療業界の変革期の最中で、技術的には可能だが規制があって難しい事業をカタチにする挑戦をしていたのです。
当時、医療業界において「オンライン診療」は新しい概念だったということもあり、利便性/リスク/患者-医師双方にとっての経済合理性など、実際に導入するにあたっては多くの要素を考慮する必要があり、誰もが「すぐにやりたい」と手を上げている状況ではありませんでした。
そんな中で大切にしていたのは、新しいものを積極的に受け入れてくださるお客さまを見つけることです。イノベーションのカーブではないですが、イノベーター・アーリーアダプターと言われる属性の顧客を探しにいきました。マーケットと対話して、どの層のお客さまに対してどんなタイミング・ストーリーでタッチしていくかを大切にしていましたね。
 
ーーその中で、どんな難しさがありましたか?
われわれは「このプロダクトは絶対に役に立つ」というスタンスでいました。一方でそのスタンスや考え方が別の視点から見たら異なることや、間違っていることもありました。「自分たちは絶対に正しいのだ」という雰囲気は、時にモメンタムと言われるような独特のものになります。ですが、それらと客観的に向き合い、さまざまな視点で現象を捉え前に進めることが難しかったですね。

もしももう一度入社当時に戻るなら、戦略的な発信を初期から行っていく

ーー「事業を通じてマーケットと丁寧に対話をする」という言葉、非常に奥が深いですね。今もしもメドレー様へジョインした当時に戻るとしたらどんなことをしていきますか?
 
入社当時に戻るのであれば、自社、マーケット、顧客、競合のポジションや訴求を把握し、戦略的に発信やコミュニケーションを行っていくと思います。今振り返っても、メドレーには優秀で面白い人材が集まっていました。だからこそ、社内外含めてメドレーの応援者をもっと作れていれば、事業成長のカーブをよりよいものにできたのではないかと思うのです。
 
これはTuringにおいても心がけなければならないことだと思っています。われわれは「We Overtake Tesla」を合言葉に、創業時からTeslaとい強力なプレイヤーをベンチマークしています。。一方で、仮に自分たちだけが正しいという考えに組織や個人が陥り、発信を行ってしまうと思わぬところで足を掬われることになりかねません。だからこそ、社会に流れているコンテキストを理解して発信を行うことには気をつけていきたいですね。

未来の当たり前を作るのは忍耐や我慢強さ

ーーマーケットを創り上げてきた田中さんが今を振り返って発信を重きに置かれている点、非常に勉強になります。メドレーを通して今までにないものをカタチにしてきた田中さんにとって、「未来の当たり前をつくる」うえで大切なことは何だと思いますか?
 
さまざまな要素があると思いますが、強いてあげるとすれば忍耐や我慢強さだと思います。マクロな視点で未来の予想するのは簡単です。自動運転はいつか実現しますし、オンライン診療もあった方がいいと言われていました。
 
一方で、それがいつ実現するのかを当てるのは非常に難しいです。だからこそ適切なタイミングで市場にポジションをとっていること、そのために事業をやり続けていることが大切だと思っています。
 
メドレーは規制緩和という業界変化に合わせて、コロナという外部要因が重なりました。その時までに組織・人が我慢強く戦える状態を作っていたことが、成功の鍵だったのではないかと思っています。

Turing転職の裏側

ーー忍耐や我慢強さ。これからのTuringにおいても非常に大きなテーマだと思います。そんな経験をされてきた田中さんのTuringへのジョイン。いろんな方から驚きの声があったと思います。その背景には、「事業テーマの希少さ」「求められるケイパビリティーの違い」という2つの観点があるのではと考えているのですが、この観点においてなぜ田中さんはTuringを選んだのでしょうか?

完全自動運転EVをつくるという一見無謀な思い

Turingを選んだ理由は大きく2つあります。1つめは、マクロな視点で考えた時にTuringが目指す世界は人生を賭ける価値が大いにある点です。EV化により、自動車業界への参入障壁は以前と比べると大きく下がっています。その証拠にアメリカや中国では何百ものEVスタートアップが出てきている。一方で日本では「自動車業界での挑戦は大手自動車メーカーがするもの」とあまりに多くの人がそう思っています。アメリカや中国で多くのEVスタートアップが出てきているのと同じ様に日本でも誰かがこの分野で挑戦をする、というのはとても自然なことだと思います。また、「完全自動運転」についても昨今のAIの進化を考えると人類はおそらくそう遠くない未来にそれを実現していると思っています。Turingの経営陣はAIや自動運転領域のスペシャリストであり、今Turingに集まってきているソフトウェアエンジニアのチームはおそらく他の自動車メーカーには簡単に作れないものだと思っています。AI/ソフトウェア領域に強みを持つTuringが、上手くEV車両を製造する能力を獲得することが出来れば、「完全自動運転EV」を製造することも夢ではないと思っています。
 
2つめの理由として、難しい事業領域だからこそ自分のような人間が挑戦するべきだと思えたことです。事業の実現性や蓋然性という観点では、完成車メーカーを創り上げるのは非常に難しい挑戦です。事業戦略・シナリオをいくつ考えても、うまくいかないものの方がたくさん思いつくような領域であることは間違いありません。でも、だからこそ自分のような人間がチャレンジしなければと思いました。
 
私個人としては、メドレー時代に、社員数数十名の会社がどんどん成長して大きくなり、IPOをして、時価総額1,000億円以上の会社になって東証プライム市場に区分変更して…という非常にダイナミックな経験をさせてもらいました。この経験・キャリアは仲間のおかげであることはもちろん、スタートアップエコシステムからの恩恵も大いにあります。そんな自分が、「さらに儲けるために」「自分のために」「成功確率が高いかどうか」などの観点で考えてもつまらないと思うんです。
 
「せっかく恩恵を受けたのならもっと世の中のために面白いチャレンジがしたい」「社会がよくなる挑戦をし、子どもたちにとってよりうよい社会づくりをしていきたい」そう思いました。

無謀な思いを実現するための創業者たちのバックグラウンド・シナリオへの共感

また、Turingが登ろうとしている山の高さや、山を登れる可能性を考えた時に、山本さん・青木さんのバックグラウンドや持っているシナリオに共感したこともTuringジョインの理由の1つです。
 
他のスタートアップでも勝てるところは山ほどある中で、課題設定と二人のバックグラウンドに可能性を感じました。また、山本さん・青木さんがアカデミア・エンジニア畑だからこそ、ビジネスを進めるうえで私の経験やキャラクターが活かせそうと思ったことも大きいです。
 
ーー山本さんや青木さんは田中さんから見て、どんなキャラクターの方ですか?
山本さんは基本的に我欲が一切ないです。欲があること自体は悪いことではないですが、ここまで透明な人はいないなと思っています。世の中をこうしていきたい、人類をこうしていきたいという大きな主語・テーマに向かって100%向かっていける点が他の人にはない特長ですね。
 
また、彼自身もHEROZで上場を経験したことや、自分自身が開発したPonanzaが非常に大きな成果を残したという経験などを通じて、「運がいいことにたまたま恵まれた環境にある自分だからこそ、より社会が前に進む挑戦をしよう」と強く思っており、同じ考えを持っている点も非常に魅力的です。
 
青木さんは、出会う前はご経歴から「ビジネスマン」ではなく「アカデミアの人」なんだろうなと思っていました。ですが、実際に一緒に仕事をすると感じるのは、「ビジネスマン」なのか「アカデミアの人」なのかといった違いがどう、というよりも、とにかくポジティブでコトを前に進める力強い人だということです。前に進むことを常に考え、足を止めないスタンスを持った方だと思っています。わからないことは調べ、聞き、勉強して進める人で、どちらかというと、アカデミアのバックグラウンドを持った経験豊富な商社マンというようはイメージを持っています。

事業サイドにおけるTuringのイシューと求められるケイパビリティー

ーーそういった経緯でTuringにジョインされたのですね。開発メンバーが主体の組織に事業サイドとして入社して、田中さんが注力して推進していくのはどんなことでしょうか?

今後取り組む大きなイシューはTuring応援団の構築

いろいろありますが、Turingの大きなイシューは製品開発と応援団の構築だと思っています。Turingの掲げる夢は壮大で難易度が非常に高いです。そのため、色々な形でTuringを応援してくれる存在を作っていくことが極めて大切になってきます。
 
そのために、足下の活動としては広報に力を入れています。さまざまなレイヤー・ステークホルダーからの認知・興味・応援を得ていくことが私の重要ミッションです。Turingが走る領域でこれくらい尖った挑戦をする人が今後たくさん出てくるとは個人的に思っていません。社会的にも稀有な挑戦をするからこそ、みんながこの夢に賭けてくれる空気感を作っていきたいです。それがTuringの成功確率を上げることにつながっていくと信じています。
 

事業開発として進めていけないことは全社的な車両開発能力の構築

ーー全社的なイシューとして広報活動に注力されている理由が非常に理解できました。事業開発の面で注力されていることはなんでしょうか?
 
完成車メーカーになるには、車両開発だけでなく、それに伴って必要になる工場の確保・人材採用・さまざまなベンダーさまとの協業・連携、保安基準や法規の理解・解釈など広範囲におけるミッション・タスクがあります。
 
TuringはAIをつくっていく観点では、必要なタレント・機能が揃ってきているかもしれません。ですが、世の中の全ての量産メーカーが持っている「車をつくる」という機能をまだ持っていません。事業開発として、それらを全社でつくる体制を整えています。

Turingの事業サイドで求められるケイパビリティーとは

ーーそんな中でTuringに求められるケイパビリティーはどんなものになるのでしょうか?
いわゆるSaaSやto Cスタートアップとは違う会社になるので「求められるケイパビリティーがわからない」「働くイメージが湧きづらい」とよく言われます。ですが、私的には他のスタートアップと大きくは変わらないと思っています。ただその抽象度が高いがゆえにそういった印象になっているだけだというのが率直な感想です。
 
基本的にどのような業種、業態であれスタートアップの初期フェーズにおいては「あらゆるボールを拾う」というスタンスが大切です。そのため、全体を見渡して仕事を拾い、周りに協力を仰ぎながらコトを前に進める力が必要だと思っています。「できることを探して進める」という観点ではやることは変わらないですね。
 
ただ、どのタスクを拾って前に進めればいいかは誰もわからない。だからこそ複数のシナリオや課題仮説を持って自分で仕事を推進し、カタチにする腕力が今のフェーズでは必要になってきます。
 
ーー複数のシナリオを描いてカタチにする腕力。田中さんの動きを見ているとまさにそういったスキルを感じます。エンジニア文化の強い会社に事業サイドのボードメンバーとして入社する上で意識されていることや、今までの経験とは違う点はどんなことがありますか?
 
山本さんや青木さんはエンジニア畑の人材です。そのため、彼らでは拾えないボールや悩みも存在します。今は、いわゆる事業開発・広報といった職域の人がやっていることを意識的に推進していますね。非エンジニアバックボーンの自分が携わったことで、Turingの事業基盤が強くなるようにしています。
 
私が今まで経験した他社での経験と異なる点は、事業をカタチにするまでの進め方です。メドレーではプロダクトがあり、機能や要件・課題・拡げ方がマーケットにフィットしているかを高速で検証しながら売っていく形でした。Turingはプロダクトがなく、簡単には作れません。また、顧客基盤もまだない状態です。遠くにある山を登っていく中で色々なマイルストーンを想定しながら考えて動いていきます。
 
時に、「山の登り方が異なっていた」という事象も発生するでしょう。そうなると必然的に求められる役割やミッションが変わっていきます。そんな大きな変化に対して自身の役割をダイナミックに変えていくことが大事だと私は思っています。
 
ーー今のフェーズにおいてTuringに求められるスキルやスタンスはどんなものでしょうか?
 
現フェーズのTuringにジョインするのであれば、カオス耐性は絶対に必要です。どんなミッション・タスクをも拾うスタンスが求められます。さまざまな選択肢の中から、何を優先的に進めるのかを定義していける人じゃないとフィットしづらいです。軸となる職務を遂行しつつ他の領域にも範囲を広げて推進していく力が必要になってきます。正直、過去の経験をそのまま活かせるというケースは少ないでしょう。そのため、「新しいことを学び、試行錯誤し続けられる力」が非常に大切だと考えています。
 
実際に共同創業者の青木さんは、工場設立を引っ張っていますが、彼が過去、自動車の工場を作ったことがあるわけではありません。ですが、事業にとって必要なことを見極め、自身のリソースをそこに投下する意思決定をしています。そんなスタンスで働けるのが今のTuringであり、貪欲に学び実践するプロセスを楽しめる方にとっては最高の環境だと思います。

Turingが勝つために

ーー最後に、Turingが勝つために必要なことについて、現段階で田中さんが考えていることを教えてください。

社会のワクワク枠から、世界を変えるチームへ

何度も言いますがTuringの夢は壮大です。今や自動車メーカーの中で時価総額世界最大のTeslaをOvertakeするってかなりぶっ飛んでいますよね。ですが、この夢をいろんな人が応援してくれる、賭けてくれる文化を作っていくことが大切です。
 
そのためには清く正しくやることが大原則だと思っています。誰かを攻撃したり批判して進むのではなく、社会がTuringに期待してくださるワクワク感を高めて進んでいく。働く仲間はもちろん、社内外問わずさまざまなステークホルダーをリスペクトしながら戦っていくことが勝利の必須要件です。
 
青木さんも、Turingの採用方針に「いいやつを採用する」と言っています。当たり前ですが、自分たちがいいやつでないと応援されないですよね。だからこそ清く正しくやっていきたいと思っています。
 
We Overtake Teslaへの道はまだまだ始まったばかりです。壮大な旅路のスタートラインに立った今、私自身はものすごくワクワクしています。世の中にとっていい影響を与えられる事業・チームづくりを精一杯頑張っていきます。

最後に

私は事業サイドの一人目のボードメンバーとしてジョインしました。Turingは現在、広報・コーポレートなどさまざまな領域で人材を募集しています。過去部門の責任者や立ち上げをご経験されてきた方と一緒に、共に新しいことを学びながらも最高のチームを作っていく挑戦をご一緒したいなと思っています。

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